抄録
植物キチナーゼは、病原菌に対する溶菌作用をもつことから生体防御タンパク質としての研究が行われてきた。しかし、植物にはいくつかのキチナーゼアイソザイムが存在しており、その全てが生体防御に関与しているとは考えにくい。そこで本研究では、植物キチナーゼの生理機能を明らかにすることを目的として、シロイヌナズナの生育段階、器官、ストレス条件下における3種類のキチナーゼアイソザイム(AtChiA、AtChiB、AtChiV)の発現様式を、活性およびmRNAレベルで比較した。シロイヌナズナは通常条件下で栽培し、各生育段階の各器官を用いてキチナーゼ活性の測定および全RNA抽出を行った。莢形成時の根と莢では、他の器官より高いキチナーゼ活性が確認された。さらに、アロサミジンにより、開花時の根、ロゼット、茎のキチナーゼ活性が一部阻害されたことから、これらの器官ではfamily18キチナーゼも発現していると考えられる。また、それぞれに特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行った結果、AtChiBは発芽時と莢形成時に、AtChiVはすべての生育段階で多く発現していた。一方AtChiAは通常の栽培条件下ではいずれの時期、器官においても発現が認められなかったが、傷害処理、エテフォン処理、NaCl処理、パラコート処理により発現が誘導されたことから、AtChiB、AtChiVとは異なる生理機能を有すると考えられる。