抄録
葉に非構造性炭水化物(TNC)が蓄積すると葉の光合成速度が低下することが知られている。現在、TNCの蓄積による光合成速度の低下は、葉に蓄積したグルコースにより光合成系遺伝子の発現が抑制されることが原因と考えられている。個体レベルでの糖の動きを考えると、成熟葉は光合成を活発に行い、光合成産物の余剰分を他の器官へと送り出している。一方、葉の発生初期はその構成、維持コストに見合うだけの光合成を行なうことができないので、他の光合成器官から送られる光合成産物に依存している。従って、葉の糖利用の変化にともないTNCが光合成に与える影響も異なっているはずである。Furbank(1997)の方法を改良し、初生葉が様々な発生段階にあるインゲンに5日間糖を与えることで初生葉のTNC含量を増加させ、光合成機能の変化を調べた。
糖を与える処理により、初生葉のTNC含量は約2倍に上昇した。葉の発生段階により葉に蓄積する主なTNCはグルコースからデンプンへと変化した。葉の発生初期には、糖を与えた処理個体と対照個体で光合成速度に差が見られなかった。一方、葉の展開途中から完全展開後にかけては、糖を与えた処理個体の光合成速度は、対照個体と比較して減少した。Rubisco含量も同様の傾向を示した。この結果は葉がシンクの時にはTNCによる光合成抑制はおこらず、ソースの時に光合成抑制をおこることを示唆している。