抄録
硝酸イオンの取り込みは、植物の硝酸同化経路の最初に位置し、経路全体の律速段階となっている。高等植物においては、器官間の輸送などが複雑に影響するために、硝酸イオン取込み活性の詳細な解析が困難であった。セン類ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens) の原糸体は比較的未分化で液体培養が可能なので、我々はこれを材料として解析を行った。まず前培養時の窒素源を変えるなどして取込み活性を測定したところ、ヒメツリガネゴケには誘導性の高親和性輸送体しか存在しないことを示唆する結果が得られた。また、硝酸イオン存在下で前培養して活性を誘導しておけば暗条件でも取込みが起こったことから、取込み活性自体には光は必須でないことを見出した。さらに、光強度を上げることで取込みが促進された。一方、アンモニアの添加によって硝酸イオンの取込みが可逆的にかつ速やかに阻害されることを以前報告したが(2003年度本大会)、今回、さらに解析を行った。まずグルタミン合成酵素の阻害剤を添加すると、硝酸イオンの取込みがアンモニアによる阻害を受けなくなったことから、硝酸イオンの取込みを阻害するのはアンモニアではないことが示された。さらに、グルタミン酸合成酵素の阻害剤またはグルタミンを添加すると硝酸イオンの取込みが阻害されたことから、硝酸イオンの取込みを阻害するのはグルタミンであることが明らかとなった。