抄録
貯蔵タンパク質は種子の登熟期に小胞体でプロ型前駆体として合成され,レセプター依存的にタンパク質蓄積型液胞に運ばれ,プロセシングを受けて成熟型になる.シロイヌナズナの選別輸送レセプターであるAtVSR1を欠損する変異体の種子では,貯蔵タンパク質の一部が前駆体となり細胞外に分泌される.本研究では,貯蔵タンパク質の前駆体を蓄積する新たな変異体A02とA03の解析結果を報告する.A02及びA03変異体の種子では,貯蔵タンパク質の成熟型とともに前駆体も蓄積していた.遺伝学的解析の結果,これらの表現型は同一遺伝子座に起因する劣性変異であることが判明した.電子顕微鏡観察の結果,これらの変異体の種子ではAtVSR1欠損変異体とは異なり貯蔵タンパク質の細胞外への分泌は見られなかった.一方,細胞質にはタンパク質蓄積型液胞とは明らかに異なる直径1μm程度の電子密度の高い構造体が多数蓄積しているのが観察された.興味深いことに,一部の構造体の周囲にはリボソームが付着しており,小胞体由来であると考えられた.免疫電顕観察で貯蔵タンパク質は,新規構造体の電子密度の高い部分には検出されず,その周辺または内部の電子密度の低い部分に検出された.現在,プロテオーム解析により,A02変異体と野生型の種子で存在量が異なるタンパク質の同定を行っている.