抄録
Positron Emitting Tracer Imaging System (PETIS)は、11CO2, 13NO3-, 13NH4+, 52Fe3+等の形で植物個体に与えたポジトロン放出核種の体内分布を非破壊的に観測できる装置である。最大の特長は、オートラジオグラフィーなどの手法と異なり動画像(2次元 x時間)データが得られる点にある。これにより植物における物質輸送の動態を視覚的に理解することが容易になり、近年、様々な研究に利用されている。
本発表では、定性的な解釈にとどまらず、PETISデータからはトレーサーの移動速度や組織への分配比等の定量的情報が抽出可能であることと、そのための数理的解析方法および応用例を報告する。
動画像データから2つの位置を選び、各点におけるトレーサー量の経時変化を抽出し比較解析すれば、2点間の移動速度等を導くことができる。解析方法には伝達関数法を用いた。伝達関数とは、メカニズムが未知である系(ブラックボックス)の入力データと出力データを元に、系が行なった変換を数学的にモデル化したものである。これにより、ニラの葉身を移行する18F-トレーサーの移動速度と損失の割合、ダイズの三出葉への18F-、13NO3-トレーサーの分配比を求めた。さらに、11CO2を供給した植物体における光合成産物の移動を解析した最近の研究例も挙げ、将来展望を示す。