抄録
シロイヌナズナにおけるサイトカイニン応答情報伝達機構に関して、サイトカイニン受容体(AHK4/CRE1/WOL)が同定されたことでその理解が一挙に深まった。AHK4がヒスチジンキナーゼであることも含め、His-Aspリン酸リレー系がサイトカイニンに応答した初発情報伝達機構に深く関わっていることを示す多くの知見が蓄積しつつある。しかし、シロイヌナズナにおけるHis-Aspリン酸リレー系ネットワークは複雑であり、その分子機構や下流の情報伝達機構に関しては不明な点が多い。この点を解析するために、今回はシロイヌナズナT87培養細胞がサイトカイニン応答研究に利用可能かどうかを検討した。まずT87細胞の培養条件を適正化し、サイトカイニン処理によるタイプ-A ARR(His-Aspリン酸リレー制御因子)ファミリー遺伝子の誘導発現を解析したところ、サイトカイニンに応答した遺伝子発現が確認された。続いて、T87細胞を用いた形質転換系を検討・確立し、各種のARR::LUCトランスジーンをもつ安定な形質転換細胞株を樹立することができた。これらを用いた発光検出リアルタイム解析系においても、T87細胞のサイトカイニン応答性を確認できた。他の解析結果も踏まえ、T87培養細胞系を用いたサイトカイニン情報伝達機構解析の有効性に関して考察する。