抄録
適合溶質による浸透圧調節は植物にとって重要な環境適応機構の一つである。プロリンは適合溶質として広く生物に用いられている。我々はこれまでに、プロリン脱水素酵素をコードするProDH遺伝子が乾燥後の再吸水や低浸透圧及びプロリン処理により発現誘導されること、ProDH遺伝子の低浸透圧及びプロリン応答性シス因子がACTCAT配列であることを報告している。
そこで、ACTCAT配列を介してProDH遺伝子を発現制御する転写因子の同定を試みた。シス因子データベースの探索から、ACTCAT配列にbZIPタンパク質が結合する可能性が示された。そこで、bZIPタンパク質がProDH遺伝子の発現を活性化するかを一過性発現実験により調べた。その結果、4つのbZIPから成るATB2サブグループがACTCAT配列特異的にレポーター遺伝子を活性化し、その活性化は低浸透圧処理により上昇した。ゲルシフト法による結合特性解析から、ATB2サブグループはACTCAT配列特異的なDNA結合特性を示した。細胞内局在性解析の結果、ATB2は核に局在した。シロイヌナズナにおけるATB2サブグループの遺伝子発現解析の結果、AtbZIP2/GBF5遺伝子とAtbZIP53遺伝子が低浸透圧処理の初期に一過的に発現誘導された。よって、ATB2サブグループがProDH遺伝子の低浸透圧応答性発現に関与する転写因子として機能することが明らかになった。