抄録
植物の体は様々なタイプの細胞から構成されている。形態形成過程において、それぞれの細胞は分裂・伸長を繰り返して、適切な数と大きさになり、植物の体を作り出す。固い細胞壁に囲まれた植物細胞が伸長する際には、細胞壁の再構築が必須である。このことは植物の細胞伸長現象を理解する上で細胞壁再構築機構の解明が必須であることを示している。これまでの植物生理、生化学の研究によって、細胞伸長時の細胞壁再構築に関わる多くのタンパク質が同定され、細胞壁再構築機構のモデルが提唱されている。しかし、これらの研究の多くは、幼植物体の胚軸などを材料にした、特定の組織における細胞伸長の研究成果に基づくものであるため、全ての細胞タイプにおいて、同一の細胞壁再構築機構が働いているか否かは未だ不明である。この点を解明するために、我々はマイクロアレイ法やプロテオームの技術を用いて、植物の各組織で働く細胞壁関連遺伝子セットの同定を目指して、細胞壁関連遺伝子群の包括的発現解析を進めている。本大会では、マイクロアレイ法の解析結果を中心に、植物の各組織の細胞で発現する細胞壁関連遺伝子セットと、細胞伸長に伴う、それら遺伝子の発現プロファイルについて報告し、細胞タイプの違いによる細胞壁再構築機構の相違について考察する。