抄録
シアノバクテリアから藻類、高等植物までの酸素発生生物はすべてクロロフィル a (Chl a)を光化学系I、IIの中核アンテナと反応中心のスペシャルペアとして用い、他のChl b, Chl cなどはアンテナ色素としてのみ働く(例外は系IのP700の片割れのChl a'、プロクロロンのdivinylChl a)。これは、800nm光を使うBchl a でなく、高エネルギー短波長の670nm光を吸収するChl a が酸素発生成立に必須だと示唆する。
しかし、宮下らが発見した新型シアノバクテリアAcaryochloris marinaは 710nm光を使うChl d を主要色素とする。この光化学系IではChl d の2量体P740が反応中心クロロフィルとなる。系IIの主要色素もChl d だが少量のChl a も存在し、活性な反応中心は単離されていない。系IIから発せられる Ch l d の遅延蛍光、熱発光、蛍光、吸収変化, ESRなどの最新の実験事実にもとづき、Chl d の吸収する低エネルギー遠赤色光で酸素発生をする機構と、系IIの進化過程を考察する。