抄録
栽培イネOryza sativa L.はアジアを中心に広く栽培されているアジア原産の種であり,O. glaberrima Steud.は西アフリカで局部的に栽培されているアフリカ原産の種である.両栽培種のゲノム構成はAA(2n=24)であり,それぞれの祖先種を含めて同一ゲノム構成を有する野生種が数種存在する.これらAゲノム種の間では,複雑な生殖的隔離機構が存在するものの,交雑は容易であり,イントログレッション(Introgression)も可能である.
演者らは,有用育種素材と新規遺伝子資源の探索を目的として,数種のAゲノム種の染色体断片をO. sativaに導入する試みを行ってきた.具体的には,戻し交雑とDNAマーカー選抜によって,Aゲノム種染色体断片がゲノム全体をカバーするように染色体置換系統群(イントログレッション系統群)を育成してきた.これらの系統群には多くの自然突然変異が観察され,これまで,生殖的隔離機構や栽培化に関わる遺伝子群を中心に,マッピングを主体とする解析を行ってきた.ここでは,系統群の作出経過と解析を行ってきた生殖的隔離機構や栽培化に関わる遺伝子について紹介する.