抄録
葉緑体は原始真核生物への原始原核光合成細菌の細胞内共生によって生じたと考えられている。そのため、宿主である原始真核生物は原始原核光合成細菌の分裂を制御するために、共生後に新たな制御機構を発達させたと考えられる。この制御機構の解明を目的として、我々はシロイヌナズナの葉緑体分裂変異体arc3の遺伝子同定を行った。マッピングと相補実験からARC3遺伝子は742アミノ酸をコードしており、N末領域がバクテリアの分裂制御因子であるFtsZとのホモロジーがあり、C末領域は真核生物でよく知られているシグナル伝達因子のPhosphatidylinositol-4-phosphate 5-kinase (PIP5K)の一部とホモロジーがあった。抗体による解析からARC3タンパク質はFtsZ タンパク質と同様に葉緑体の分裂面に存在していた。また、ARC3タンパク質のPIP5K領域は高等植物のシグナル伝達因子として機能しているCDPKによってリン酸化され、ARC3タンパク質の活性はリン酸化によってネガティブに制御されている事が示唆された。これらの事よりARC3遺伝子は、真核生物が原核細胞由来の葉緑体の分裂を制御するために、真核型の遺伝子と原核型の遺伝子が融合して生じたためと考えられる。現在、ARC3遺伝子の発現制御機構の解析とARC3タンパク質と相互作用する因子の同定を行っており、植物細胞における葉緑体の分裂制御機構について現在までに解明されている事を示すと同時に、今後の展望について話題を提供する。