抄録
光合成生物を利用した水素生産の研究は、第一次オイルショックを契機に盛んに行われたが、原油価格の安定化もあって低迷状態が続いていた。最近大気中のCO2を始めとする温室効果ガス濃度の急上昇を受けて、気候変動に対する懸念からこの研究に対する関心が再び高まりつつある。温室効果ガス削減は人類的課題であり、将来的には現排出レベルから60-85%の大幅削減が必要だとされるが、その実現には再生可能エネルギー源の創成が不可欠である。太陽エネルギーは莫大で社会的エネルギー消費の6000倍を越えるが、難題はその経済的利用である。しかし、例えばサトウキビ等の農作物では経済的生産が相当程度に実現されているから、合理的研究戦略に基づいて努力を積み重ねれば経済的光生物的水素生産も可能性があると考えられる。今日では、幾つかの光合成生物のゲノム情報が入手可能になり、これまでに蓄積された光合成、分子生物学、生化学などの知識を背景に、遺伝工学的手法によって光生物的水素生産向上に向けた改良が可能になっている。しかし、改良にあたって、どのような生物のどのような特性に着目してその後の改良を行うかについては、手探りの状態が続いている。本シンポジウムは、光生物的水素生産の基礎、有力な候補となりうる幾つかの生物の特性、水素生産向上に向けた遺伝工学的改良の例を紹介し、ポストゲノム時代の研究の新たな展開について討論する。