抄録
アブシジン酸(ABA)は植物体の環境適応や種子の成熟や休眠において重要な機能をはたしている。シロイヌナズナの乾燥誘導性遺伝子であるrd29Bの発現は主にABAによって制御されている。この発現には二つのABRE配列がシス因子として働き、bZIP型のAREBが転写活性化因子として機能している。また、ABA変異体やアミノ酸配列を置換したAREBを用いた転写活性化実験やゲル内リン酸化実験から、ABAによって活性化されるセリン/スレオニンキナーゼによってAREBの転写活性化が制御されていることが示された。一方、アミノ酸置換や欠失変異によってABA非依存的に活性化したAREBを過剰発現した形質転換体中で発現が変化した遺伝子をマイクロアレイによって網羅的に解析すると、種々のABA誘導性遺伝子が過剰発現していることが示された。
シロイヌナズナのレセプター様キナーゼであるRPK1のアンチセンス植物や欠失変異体は発芽や成長速度、気孔の閉鎖等において、ABAの感受性が低下していた。これらの形質転換体や変異体を用いて発現が変化した遺伝子を解析するとAREB1を含む多くのABA誘導性遺伝子の発現が押さえられていることが示され、RPK1がABAによる応答機構において重要な役割をはたしていることが明らかになった。RPK1やAREBを含むABAによるシグナルの受容から遺伝子発現に至る制御機構について考察する。