抄録
アブシジン酸(ABA)は,植物の発芽や環境応答に重要な役割を果たしている.ABAが関係する現象の多くは,内生ABAのレベルが対応しているためABA生合成の調節機構の解明はABAの作用機構を明らかにするための一つの重要な研究課題である.この数年間に,ABA合成系路上の主要な遺伝子・酵素が次々に単離され,シロイヌナズナにおいてはほぼABA生合成の全貌が明らかになってきた.演者らは,経路の最終段階に位置するアブシジンアルデヒドを酸化しABAを生成すると考えられるアルデヒド酸化酵素(AAO3),および1つ前の反応を触媒するABA2/SDR1の特定に成功し,それらの酵素学的諸性質を明らかにするとともに主に乾燥応答時のABA合成部位とABAもしくはその前駆体の植物体における移動について検討を加えてきた.その結果,少なくともシロイヌナズナにおいては,乾燥に応答して増加するABAは葉で合成されその一部がすみやかに根に移動すること,また,この時の感受部位も葉にあることが明らかになってきた.ABA合成の出口にあたるAAO3の分布をAAO3プロモーター:GFPおよび特異抗体を用いた免疫組織化学により詳細に調べたところ,維管束(伴細胞)や孔辺細胞内にも観察された.これらの結果をふまえて,乾燥応答時のABA生合成と移動の調節機構に関する新たな発想の必要性も含めて話題を提供する.