抄録
種子や側芽などの器官では、生長の調節とそれに伴う代謝的および防御メカニズムを駆使するために様々な内在性シグナルによる調節が見られる。我々は、休眠の分子メカニズムを理解するために、DNAマイクロアレー法を用いてシロイヌナズナの種子と側芽における遺伝子発現プロファイルを比較した。これら休眠器官の遺伝子発現プロファイルを規定する主要なシス配列を検索し、種子と芽で共通な生長調節のシス配列(Up1- and Up2-boxes)と、器官に特徴的な休眠活性化に関わるシス配列(ABA応答配列、糖抑制配列)を同定した。次に、休眠の調節遺伝子を同定することを目的に、ABA不活性化酵素遺伝子のクローン化を試みた。主要なABA不活性化酵素であるABA 8'-水酸化酵素はチトクロムP450モノオキシゲナーゼであることが知られている。シロイヌナズナゲノムに存在する272個のP450様遺伝子から、系統解析、遺伝子発現プロファイルと代謝プロファイルの比較から絞り込んだ候補遺伝子の中から4つのCYP707A遺伝子がABA 8'-水酸化酵素をコードしていることを明らかにした。さらに、CYP707A2遺伝子の突然変異株は種子に多量のABAを蓄積しており、その種子は極めて高い休眠性を示した。このことから、ABAの不活性化経路の機能欠損は種子休眠の調節に極めて有効である事が示された。