日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第46回日本植物生理学会年会講演要旨集
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光化学系IIの進化の過程でP680は如何にして高い酸化力を獲得したか?
長谷川 浩司*野口 巧
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p. 006

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抄録
光化学系IIの第一電子供与体クロロフィルP680は、約1.2Vという極めて高い酸化電位(Eox)を持ち、この高い酸化力が、系IIにおける水の酸化による酸素発生を可能にしている。およそ27億年前に起った細菌型反応中心(PのEoxは約0.5V)から光化学系IIへの進化において、この高いP680の酸化電位が如何にして獲得されたかは、大きな謎として残されている。本研究では、量子化学的手法を用い、系II蛋白質におけるP680の高い酸化電位の原因を調べ、その進化の過程を推測した。密度汎関数法を用いて、溶媒の極性(誘電率:ε)とクロロフィルのEoxとの関係を求めたところ、ε>5の極性環境下ではEoxはほぼ一定値(~0.75)を示したが、ε<5の低極性環境下では、εが低くなるにつれ、Eoxは急激に上昇した。この関係から、理想的な疎水蛋白質中(ε=2)では、クロロフィルは1.5Vという極めて高い酸化電位を持つことが示された。このことは、クロロフィルは、無極性環境下では本来、水の酸化に十分な酸化力を持っていることを示している。実際に、P周りの極性残基の数は、紅色細菌に対し、系IIでは約半数に減っており、P680の結合部位の極性を下げることが、P680の酸化力上昇の最大の要因であったと考えられる。
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© 2005 日本植物生理学会
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