抄録
光化学系IIにおいて、第二キノン電子受容体QBは、一電子還元によりセミキノンアニオンQB-となり、さらに二電子還元されるとプロトンを結合して蛋白質から遊離する。こうしたQBに関する反応機構の詳細は、未だほとんど解明されていない。昨年の年会において、我々は、酸素発生系II標品を用いたQB-/QBFTIRシグナルの測定を報告した。今回は、Mnを除去した系II試料を用いてほぼ純粋なQB-/QBFTIRスペクトルを観測し、さらに、重水素置換によって近傍アミノ酸側鎖の反応を調べた。Mnを除去した好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusの系IIコア標品に、電子供与体を加え、一閃光照射によりQB-/QBFTIR差スペクトルを測定した。得られたスペクトルのCOOH振動領域(1760-1710cm-1)には、特徴的な1745cm-1の正のピークが現れた。このピークは、重水置換した試料においても低波数シフトを示さないことから、蛋白質のCOOH由来ではなく、近傍のフェオフィチン分子のC10=Oに帰属された。このバンドを含め、COOH振動領域のスペクトルは、重水置換によってほとんど影響を受けなかった。このことから、系IIでは、紅色細菌型反応中心の場合と異なり、QBの一電子還元により、近傍カルボキシル基のプロトン化は起こらないことが示された。