抄録
シロイヌナズナにおけるクロマチン構造の凝集度合いと遺伝子発現との関係を解析するため、DNase I感受性を80 kbの染色体領域に渡り500 bpの解像度で評価した。このゲノム領域は葉において様々な発現レベルを示す30個の遺伝子を含んでいるが、全体的なDNase I感受性はすべての領域でほぼ同程度であった。しかし、興味深いことに、ほとんどの遺伝子の両端にDNase I高感受性部位(DNase I HS)が発現レベルに関わらず見出された。このDNase I HSが存在する意味、役割を調べるため、発現様式がよく調べられているHSP18.2、H4、PCNA1、ADH、V-ATPase遺伝子周辺のDNase I感受性を発現状態の異なる細胞で比較した。ADH遺伝子以外のプロモーターには発現状態にかかわらずDNase I HSが検出された。また、HSP18.2遺伝子のクロマチン構造を解析したところ、転写活性化に伴いDNase I HSが下流に広がることが認められた。一方、ADH遺伝子プロモーターについては、ABAにより転写誘導されない葉ではDNase I HSは存在しておらず、転写誘導される培養細胞や根では存在していた。同様に、ABAで誘導されるRD29b遺伝子プロモーターにはDNase I HSが存在しており、葉で誘導されないAt2S3遺伝子プロモーターには存在していなかった。以上の結果をまとめると、DNase I HSは遺伝子発現のポテンシャルを制御しているという可能性が考えられる。