抄録
緑色イオウ光合成細菌はクロロゾームと呼ばれる膜外光捕集器官を持つ。そのクロロゾームの光捕集部は、タンパク質の関与しないバクテリオクロロフィル(BChl)色素のみの自己会合体から構成されている。緑色イオウ光合成細菌Chlorobium tepidumはクロロゾーム内の色素としてBChl cを持ち、近年、その生合成経路については、ゲノム解析およびに分子遺伝学的手法によって明らかになりつつある。その中でBchUはBChl c生合成系で20位をメチル化する酵素として同定されたが、生合成経路上のどの反応過程で働くかは明確ではない。本研究ではBchUの反応特性をin vitroで調べることで、この酵素の生合成経路上での役割を解明することを試みた。ヒスチジン融合タンパク質として発現・精製されたHis6-BchUを用いて、S-アデノシルメチオニンの存在下で数種類の人工基質(BChl d誘導体)に対する反応性を検討した。その結果、BchUは中心金属を持つ基質にのみ触媒反応を示したことから、基質に配位する中心金属の存在がBchUの反応進行に必須であることが明らかとなった。また試みた基質の中で、3位に1-ヒドロキシルエチルを持つBChl d誘導体に対して最も高い反応性を示すことが分った。BChl cの生合成経路上で機能するBchUの役割について議論する。