抄録
紅色細菌Blastochloris viridisの光合成反応中心複合体は詳細な立体構造が解明されている。この複合体のチトクロムサブユニットは直線的に配置された4つのc型ヘムを含み、光酸化されたバクテリオクロロフィル二量体(P+)を速やかに還元する。4つのヘムは異なる酸化還元中点電位を持ち、-50 mV (c553), 320 mV (c556), 30 mV (c552), 380 mV (c559), 500 mV (P)の順に電子伝達を行う。このような低、高電位ヘムの繰り返し構造は他の細菌にも共通しているが、なぜこのような配置が選択されてきたのかは分かっていない。本研究ではその理由を明らかにするために、このサブユニット中の荷電アミノ酸等に部位特異的変異を導入し、酸化還元中点電位を改変した。変異導入はB. viridisのチトクロムサブユニットを別の紅色細菌Rubrivivax gelatinosusで発現させたキメラ反応中心複合体に対して行い、20以上の変異株を得た。変異株のうち、264番目のArgをGluまたはLeuに換えたものではc559の電位が130 mVに、Lysに換えた場合は280 mVとなった。また、202番目のArgをGluに換えた場合もこのヘムの電位は280 mVに低下した。これらの変異株の膜標品に対する閃光照射実験では、c556からP+への電子伝達が最大で20倍以上遅くなったが、どの株も光合成による生育は可能であった。このことから、Pへの直接の電子供与体であるc559の電位は、250 mV程度の低下では生理的に受容可能であることが分かった。