抄録
カロテノイドは光合成生物において、光捕集、光酸化障害防止などに働いているが、その構造と機能の関係は十分には解明されていない。紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusはスフェロイデン経路とスピリロキサンチン経路の両経路を併せ持ち、多くの種類の直鎖型カロテノイドの生体内における機能比較に用いられてきた。一方、酸素発生型光合成生物や好気性細菌は主に両端が環状構造をとるカロテノイドを作る。そこで、環状構造をとる事による機能的な利点を調べるため、環状構造を持つカロテノイド(β-カロテン)をRvi.gelatinosusに合成させ、光酸化障害防止機能を直鎖状カロテノイドの場合と比較した。β-カロテン合成酵素(リコペンサイクラーゼ)の基質であるリコペンの蓄積株にErwinia uredovoraのリコペンサイクラーゼ(crtY)遺伝子を導入してβ-カロテン蓄積株を作成した。HPLCによる色素分析の結果、細胞膜、光合成色素タンパクにもβ-カロテンが結合していた。紅色光合成細菌は直鎖型のカロテノイドしか持たないが、この株はβ-カロテンを利用して生育することが可能であった。この株について、強光照射による光酸化障害、人工的に発生させた一重項酸素に対する耐性をリコペン蓄積株と比較したところ、光酸化障害に対しては大きな違いは無いが、一重項酸素に対してはより強い耐性を示す結果が得られた。