抄録
我々は単子葉植物であるイネの花器官決定機構解明に向けた研究を進めており,これまでに,YABBY ファミリー遺伝子である DROOPING LEAF (DL) 遺伝子が心皮決定に優先的な機能を持つことを明らかにしてきた.今回我々は,双子葉植物で心皮決定に優先的に機能するクラス C・MADS 遺伝子の,イネにおける機能解析について報告する.
本研究では,まず既知の OsMADS3 遺伝子に加え,新規のクラス C 遺伝子である OsMADS58 遺伝子の存在を明らかにした.次にこれら遺伝子のノックアウト変異体および内在性遺伝子の抑制形質転換体の表現型を詳細に解析した.その結果,OsMADS3 は whorl3 における雄ずい決定に重要な機能を持つ一方,OsMADS58 は,whorl4 における花分裂組織の有限性の決定および心皮の形態形成に,重要な機能を持つことが示された.したがってイネのクラス C 遺伝子は,遺伝子重複後,whorl によりその機能の貢献度が多様化するよう進化してきたと考えられる.また,変異体の表現型から,イネのクラス C 遺伝子は,りんぴの分化領域の決定にも重要な機能を果たしていることが示唆された.さらに発現解析からは,DL とクラス C 遺伝子は発現レベルでは独立の制御関係であることが明らかになった.
現在,クラス C 遺伝子の whorl 依存的な機能分化をもたらした分子機構と,シロイヌナズナを利用したタンパク質機能の保存性に関する研究を進めている.