抄録
ブラシノライドは最も活性の高いブラシノステロイド(BR)であるが、その合成酵素は同定されていなかった。ブラシノライドの直接の前駆体であるカスタステロンはシトクロムP450酵素CYP85A(C-6位酸化酵素)により6-デオキソカスタステロンから2段階の酸化を経て合成される。CYP85A1酵素を欠失するトマトのextreme dwarf (dx)突然変異体は、そのBR欠損により茎葉の伸長抑制、葉の形態異常、および稔性の減少を引き起こすが、正常な大きさの果実を着ける。このdxの果実における内生BR含量をGC-MSを用いて分析したところ、ブラシノライドが野生型と比較して非常に高濃度で蓄積していることが見出された。このことからトマト果実にはCYP85A1とは異なるC-6位酸化酵素が存在し,ブラシノライドを合成するものと考えられた。我々はdx突然変異体の果実において発現するP450遺伝子を探索し、新規C-6位酸化酵素を同定した。このP450の転写産物はトマト果実に高いレベルで蓄積するが,茎葉と根では検出されない。この新規C-6位酸化酵素を生産する形質転換酵母に6-デオキソカスタステロンを代謝させたところ、カスタステロンばかりでなくブラシノライドへの変換までもが確認された。本研究によって,ブラシノライド合成酵素は三段階のC-6位酸化を行うP450酵素であることが初めて明らかにされた。