抄録
葉緑体は,植物細胞における太陽エネルギーの獲得系としての光合成機能に加えて,各種素材化合物 (糖,アミノ酸,脂質,テルペノイド,カロテノイド,ポルフィリン等) の生産工場であり,これらに介在する酵素群が存在する.プラスチドへの移行に必要なトランジトペプチドの予測からは,シロイヌナズナにおいて,約4,000タンパク質分子種がプラスチドに局在すると考えられるが,現在までに報告されている葉緑体プロテオーム解析においては,それらの一部が同定されているに過ぎない.
無傷葉緑体の単離において,Percoll密度勾配遠心分離を繰り返すことにより,カタラーゼ (ペルオキシソームマーカー酵素) およびフマラーゼ (ミトコンドリアマーカー酵素) の混入率を1.0 %以下に押さえることが可能になる.葉緑体タンパク質をトリプシン消化し,各タンパク質分子種のC末端ペプチドを分離する目的でアンヒドロトリプシンカラムを使用した.調整されたペプチド混合物に対して,二次元HPLC/MS/MS [MudPIT (Multidimensional Protein Identification Technology)] を用いることにより,DeltCN値0.1以上で約4,600分子種,Xcorr値2.0かつion値40%以上で1,200以上のタンパク質分子種を同定することに成功した.