抄録
分裂期に特異的なヒストンH3のリン酸化は、真核生物に広く知られており、転写の活性化や染色体凝縮・分離に重要な役割を担っていると考えられている。ヒストンH3のリン酸化に関わる酵素には、Auroraキナーゼが知られている。Auroraキナーゼは、酵母からヒトまで進化的に保存された細胞周期依存的なセリン・スレオニンキナーゼであり、ヒストンH3のSer10およびSer28をリン酸化する。哺乳類細胞においてAuroraキナーゼの阻害剤であるヘスペラジンによりAuroraキナーゼ活性を阻害すると、ヒストンH3Ser10のリン酸化が抑えられ、染色体の分離に異常が生じることが報告されている。本研究では、ヘスペラジンを用いて、植物におけるヒストンH3のリン酸化の役割を解析した。タバコ培養細胞BY-2において、抗リン酸化ヒストンH3抗体を用いて免疫染色を行った結果、リン酸化ヒストンH3Ser10およびSer28は分裂期にセントロメア周辺、またリン酸化ヒストンH3Thr3およびThr11は細胞分裂期の染色体全体に局在していた。ヘスペラジンを添加後、リン酸化ヒストンH3の局在解析した結果、ヒストンH3Ser10およびSer28のリン酸化が抑えられている一方、リン酸化ヒストンH3Thr3およびThr11の局在には変化が見られなかった。また染色体凝縮など染色体動態への影響は見られなかった。本結果は、植物においてはヒストンH3のSer10、Ser28ではなくThr3、Thr11のリン酸化が染色体凝縮に関わっていることを示唆している。