抄録
葉緑体(クロロプラスト)は、核とは別に120~150kbpの独自の2本鎖環状のDNAを持ち、これは核様体構造を形成している。植物には、クロロプラストの他にエチオプラスト、アミロプラスト、クロモプラストなどさまざまなプラスチドが存在するが、多くの組織細胞では、プラスチド核様体を観察することは容易ではない。プラスチド核様体を可視化する手法として、PENDタンパク質のN末端側とGFPとの融合タンパク質を発現するシロイヌナズナの安定な形質転換体を作成した。PENDタンパク質は、葉緑体包膜のDNA結合タンパク質であり、N末端近くにbZIP様のDNA結合ドメインをもち、N末端領域を含むGFP融合タンパク質は主に核様体に局在することがわかった。安定な形質転換体でも同様の局在が見られた。この安定な形質転換体を用いて、これまで固定した植物材料を用いてしか観察されていなかった核様体を選択的に生きたまま観察することに成功した。今までプラスチド核様体だけを観察することが困難であった緑でないプラスチドを持つ根、花、花粉などについても蛍光顕微鏡で観察した。トライコームにおける核の周りでのプラスシドの早い動きや、根の師管の中を通るアミロプラスト、根端のコルメラ細胞付近のプラスチドなどのダイナミックな挙動をリアルタイムで観察した。さらに、プラスチドの分裂に伴う核様体の形態の変化や分配のされかたについても報告する予定である。