抄録
アサガオ(Pharbitis nil)の1品種であるシダレアサガオ(weeping)は、地上部における負の重力屈性を欠損している。我々はこれまでに、weepingでは地上部において重力感受に必須とされる内皮細胞の分化が異常であり、茎の回旋転頭運動を欠損していること、内皮細胞分化異常の表現型を示すシロイヌナズナscarecrow変異体においても回旋転頭運動が欠損していることを明らかにしている。そこで本研究は、アサガオにおけるSCARECROW相同遺伝子(PnSCR)のweeping形質への寄与を、その同定と解析により検証した。まずPnSCR全長を単離し、野生型アサガオとweepingのアミノ酸配列を比較した。その結果weepingにおいて、重力屈性欠損と連鎖する1アミノ酸の挿入変異を見出した。次に、この変異がPnSCRの機能欠損の原因であるか検証するために、シロイヌナズナscr変異体を用いた相補性試験を行った。野生型PnSCRを導入したシロイヌナズナscr変異体では花茎の負の重力屈性と回旋転頭運動が復帰したのに対し、weeping型PnSCRを導入した系統ではその復帰が認められなかった。これらの結果は、weepingにおける重力屈性と回旋転頭運動の欠損が、PnSCRの1アミノ酸挿入による機能欠損に起因し、PnSCRがweepingの変異原因遺伝子であることを強く示唆している。