抄録
植物細胞が熱ストレスにさらされると,ほとんどのmRNAからの翻訳が抑制されるが,heat shock protein(HSP)遺伝子のmRNAは翻訳される.この翻訳抑制の回避には,5'非翻訳領域(5'UTR)が重要な役割を果たしている.本研究では,シロイヌナズナHSP81-3遺伝子の5'UTRを付加した遺伝子が,熱ストレス条件下においても翻訳されることを, in vitroで合成したm7Gキャップ構造付きのmRNAをシロイヌナズナ培養細胞T87のプロトプラストに導入する一過性発現実験により確認した.さらにHSP81-3 5'UTRの機能について詳細に検討するため,キャップ構造を持たないmRNA,及びIRES(Internal Ribosome Entry Site)活性測定用ベクターを用いた一過性発現実験を行った.その結果,キャップなしmRNAの翻訳効率が熱ストレス条件下で大きく上昇し,また,温度依存的なIRES活性の上昇が認められた.以上の結果から,キャップ依存的な翻訳が阻害されると考えられる熱ストレス条件下において,HSP81-3 mRNAが翻訳されるのは,5'UTRに存在するIRESが温度依存的に活性化されるためと考えられる.