抄録
我々は、シロイヌナズナのT-DNAタギングラインから耐凍性形質の向上したfreezing tolerant 1(frt1)変異体を単離している。frt1変異体では成熟葉で顕著な耐凍性の向上が認められるが、幼若葉では野生型と耐凍性に違いが見られない。また、耐凍性の違いはfrt1変異体の成熟葉における糖の過剰蓄積と相関する。しかし、frt1変異の原因は糖代謝に関わる遺伝子の発現レベルの変化よりはむしろ、成熟葉から幼若葉への糖転流経路の異常による可能性が示唆されている。今回、frt1変異体のT-DNA挿入位置を決定することにより、frt1変異の原因遺伝子を同定したので報告する。FRT1遺伝子は細胞壁分解酵素の一種をコードしており、そのホモログはシロイヌナズナで大きな遺伝子ファミリーを形成していた。しかし、FRT1と最も相同性の高いホモログの突然変異体はfrt1様の表現型を示さなかった。この結果は、frt1変異体の単離とあわせてFRT1の機能的独自性を示唆している。FRT1遺伝子の発現は常温で認められ低温処理で減少することから、推定されるFRT1依存の糖転流経路は低温下では必要ないか、あるいは低温での発現抑制が糖蓄積に寄与する可能性が示唆された。