抄録
温度は種子発芽の季節を決定する主要な環境シグナルである。冬型一年性草本であるシロイヌナズナの種子発芽は吸水時の高温条件で抑制される(高温阻害)。私達は、シロイヌナズナ種子の高温阻害には吸水後の新たなABA合成が必要であることを見出し、ABAの前駆物質であるカロテノイドの酸化開裂を触媒するNCED2 , 5 , 9遺伝子の発現が高温条件で高まることを示した。そこで、温度による発芽調節におけるNCED遺伝子の役割を明らかにするため、NCED遺伝子のT-DNA挿入による機能喪失突然変異体種子の発芽を調べた。野生型(Col)種子の発芽がほぼ完全に抑制される32℃において、NCED9遺伝子に挿入変異を持つ種子は約70%の高い発芽率を示し、NCED2遺伝子に挿入変異を持つ種子は野生型と同程度の低い発芽率を示した。また、定量PCR法により高温吸水種子の転写産物量を調べたところ、上記の3つのNCED遺伝子のうち、NCED9遺伝子が最も高い発現を示した。したがって、シロイヌナズナ種子の高温阻害をもたらすABA量の増加には、NCED9遺伝子の高温による転写産物量の調節が重要な役割を持つと考えられる。