抄録
高等植物の種子は登熟期に大量の貯蔵タンパク質を蓄える.
貯蔵タンパク質は小胞体でプロ型前駆体として合成され,小胞輸送によりタンパク質貯蔵型液胞に運ばれた後,プロセシングを受けて成熟型になる.
最近,私たちはシロイヌナズナにおいて貯蔵タンパク質の選別輸送に関わるレセプターAtVSR1を明らかにした(1).
AtVSR1欠損株では貯蔵タンパク質前駆体が大量に蓄積し,貯蔵タンパク質が細胞外に分泌していた.
酵母では,選別輸送レセプター(Vps10p)のリサイクルに関わるRetromer複合体が存在し,液胞タンパク質の選別輸送機構を維持している.
私達はシロイヌナズナのゲノム中にRetromer複合体をコードする思われる遺伝子を複数見出した.
これらの遺伝子がレセプターAtVSR1のリサイクルに関与するかどうかを調べるため,T-DNA挿入変異株を取得して解析した.
その結果,Retromer変異体には,AtVSR1欠損株と同様に,貯蔵タンパク質の前駆体が蓄積していた.
面白いことにRetromer変異体ではタンパク質貯蔵型液胞が小型化し数が増加していた.
これらの結果より,Retromerによる種子貯蔵タンパク質の輸送機構の維持について考察する.
1) T. Shimada et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 16095 (2003)