抄録
植物は病原菌や昆虫による病傷害ストレスを受けたとき、さまざまなシグナル伝達経路を介して抵抗性を獲得する。イネにおいて、ジャスモン酸(JA)は病傷害抵抗性の誘導に必要なシグナル物質の一つと考えられている。イネの抵抗性反応におけるJAの役割を明らかにするため、JA合成の出発物質であるリノレン酸(LA)合成酵素(葉緑体局在型ω-3デサチュラーゼ)の遺伝子(FAD7-1、FAD7-2)の発現をRNAi法により抑制させ、JAが欠損した形質転換イネを作製した。脂肪酸組成を調べた結果、野生株では60%以上あるLA含量が8%にまで低下した形質転換イネ(F7Ri)が得られた。さらに、傷処理によるJAの蓄積も野生株の10%にまで抑制されていた。傷害およびJA誘導性であるJAMyb遺伝子と、傷害のみで誘導されるOsMAPK5遺伝子を指標に、JAを介した傷害シグナル経路を調べた結果、F7Ri系統においては、OsMAPK5遺伝子の転写量は野生株と変わらなかったが、JAmyb遺伝子の転写量の蓄積は野生株よりも抑制されていた。これらの結果からF7RiにおけるJAシグナル経路は、充分に抑制されていることがわかった。現在、F7Riのいもち病菌に対する抵抗性についても調べており、その結果もあわせて報告する。