抄録
病原体の攻撃を受けた植物細胞では、病原菌由来のエリシター分子を認識すると、急激な活性酸素の生成が起こり、自発的な細胞死などの防御反応が誘導される。葉に壊死斑を形成する spl 変異体 (spl1~11) は、このような一連の反応に関わるシグナル経路に変異があると考えられている。これまでに各変異体より作成した培養細胞を用いて、エリシターで活性化される経路に変異があると推測される3つの変異体 (spl2, spl7, spl11) を選抜した。そこで、脱リン酸化反応の阻害剤であるカリクリンA (CA) 処理で誘導されるH2O2の生成を調べたところ、spl7では野生株やspl2、spl11に比べ多くのH2O2の生成が検出された。また、CAおよびエリシターそれぞれで活性化される経路の相関を調べた結果、CAはエリシター誘導性のH2O2の生成に対し相乗的に作用することが分かった。このことから、CAで活性化される経路はエリシターで活性化される経路の一部であり、spl7はCAが作用する脱リン酸化反応が関わる経路に関与すると考えられた。さらに、Ca2+のキレート剤であるEGTAが、H2O2の生成に与える影響を調べたところ、CA処理によるH2O2の生成量は、spl7においてのみ減少した。本発表では、H2O2生成に至るシグナル経路における、カルシウムイオンの関与についてこれらの知見をもとに考察する。