抄録
花芽形成に関与するMADS box遺伝子の中で、被子植物の典型的なB遺伝子は花弁と雄蘂で発現するが、例外的な発現様式を示す例も報告されている。一方、裸子植物のB遺伝子ホモログは雄花でのみ発現するとされ、他器官での微量発現を解析した例はこれまでない。私達は、スギ由来の2種類のB遺伝子ホモログ(CjMADS1、CjMADS2)が雄花特異的な発現を示すことをノーザンブロット解析により示した(1)。本研究では、これらの遺伝子についてRT-PCR解析を行い、より詳細な発現様式を検討した。その結果、両遺伝子は、自然着花する生長段階にあるスギだけではなく、人為的な花成誘導がなければ雌雄花が分化しない1年生挿し木苗の、葉でも発現することが示された。さらに、野外および雌雄花それぞれが優先的に分化する温度条件下で育成したスギの、雌雄花の分化初期段階にある葉での発現が検出された。雌花では、種子の形成が認められる時期に至るまで、恒常的に発現が認められた。これらの結果は、裸子植物のB遺伝子ホモログが、いわゆるB機能だけではなく、多様な機能を持つ可能性を示唆している。スギのB遺伝子ホモログの発現と雄花の形態形成に及ぼす温度の影響についても解析を行い、その結果もあわせて報告する。
(1)Fukui, M. et al. (2001) Plant Cell Physiol. 42: 566-575.