抄録
イネ科植物は根から鉄キレート物質(ムギネ酸類)を分泌して鉄吸収を行うため、鉄欠乏耐性の強弱はムギネ酸類の分泌量とそれによる鉄吸収量により説明されてきた。イネとオオムギの鉄欠乏症状は、イネでは新葉のみに極端なクロロシス症状を示し新葉の展開が止まるのに対し、オオムギでは全身の葉色が薄くなるが新葉の展開を維持する。この違いが鉄吸収量の違いだけによるものなのかを調査した。葉の鉄含量はイネの下位葉で高く、上位葉ほど低くなり、一方オオムギでは下位葉と上位葉での鉄含量はほぼ等しかった。そこでムギネ酸類分泌量の違いによる鉄吸収能力の差を排除するため、イネとオオムギを同じ容器内で生育(混植栽培)させた。その結果、単独栽培に比べ混植栽培でイネの最新葉中の鉄含量は増加したが、分配特性は変わらなかった。59Feを用いたパルスラベルの経根吸収実験においても各葉位への分配特性はイネとオオムギで単独栽培と同じであった。また葉中の59Fe含量はイネでオオムギより高かった。次に体内で有効な形態の鉄を維持する能力の違いを調べるため、新葉と下位葉の鉄欠乏時の水溶性鉄含量を比較した。オオムギでは新葉・下位葉ともにある程度の含量を維持したのに対し、イネの下位葉では極端に減少した。したがって、イネとオオムギではムギネ酸類の分泌量の違いによる鉄獲得能力の違いだけでなく、体内に吸収した鉄の分配や利用の仕方にも違いがあると考えられる。