抄録
ヒラアオノリ(Enteromorpha compressa)は主に潮間帯に生息する緑藻で、広範囲の塩濃度に適応して生育することが可能である。藻体を通常の生育環境から高塩濃度環境へ移すと、細胞内に適合溶質としてDMSP(dimethylsulfoniopropionate)を蓄積する。DMSPは多くの藻類、一部の高等植物の適合溶質であり、直接の前駆体としてメチオニンを経て合成されることが知られている。本研究では、ヒラアオノリが高塩濃度環境へ馴化する際に増加するDMSPの、生合成における代謝調節機構を明らかにすることを目的とした。
藻体を通常の培地から高塩濃度の培地へ移し、放射性標識したDMSP合成の前駆体([35S]-SO42-、[35S]-システイン、[14C]-メチオニン)を与えトレーサー実験を行った。その結果、硫黄代謝に着目し想定されるDMSP合成のスキーム【SO42-→システイン→メチオニン】において、SO42-及びシステインからのDMSP合成能が高塩濃度環境で上昇するのに対し、メチオニンからのDMSP合成能はほとんど変化しなかった。これより、高塩濃度環境へ馴化する際のDMSP量の増加が、メチオニン供給量により制御されている可能性が非常に高いことが示された。