抄録
フィトクロムの発色団は直鎖状テトラピロール化合物フィトクロモビリン(PΦB)であり、発色団の構造がフィトクロムの波長認識特性や植物の生育にとって重要である。藍藻の集光性色素フィコビリンの発色団フィコエリスロビリン(PEB)はPΦBと共通した経路によって生合成される。PEBは発色団としてフィトクロムと結合するが、フィトクロムの立体構造変換と維持に必要なC15位C16位間の二重結合を欠くため、フィトクロムの立体構造が光変換しないことが示されている。我々は植物の生育におけるフィトクロム発色団の構造の役割を知るために、PΦBを持たないhy2変異体にPEB合成系の遺伝子を導入したフィトクロム発色団改変植物体(PEB植物体)を作製した。PEB植物体の暗所芽生えの胚軸や根の細胞において543nmの励起光によって580nm付近にピークを持つ蛍光が観察された。明所では胚軸伸長が抑制されなかったことから、hy2変異体の表現型が相補されず、機能的なフィトクロムが存在しないことが考えられた。一方、テトラピロール合成系遺伝子の欠損株は、葉緑体の発生と核にコードされる葉緑体タンパク質の遺伝子発現とが協調性を失うgun (genome uncoupled) 表現型を示す事が明らかにされているが、PEB植物体もgun 表現型を示した。これらの解析から、フィトクロム発色団の構造とフィトクロムの機能の関係や、テトラピロール生合成とgun 表現型との関係などについて議論したい。