抄録
ABAは種子休眠、気孔の開閉、浸透圧ストレス耐性に関わる植物ホルモンであり、ABAシグナル伝達系の分子機構の解明は、植物科学の重要課題であるといえる。細胞膜は外界からのシグナルを受容する場と考えられ、それを構成しているリン脂質の1つホスファチジン酸(PA)は、外界からの種々のシグナルによって特異的に代謝されることが知られている。
我々は発芽時のPAの生理機能を遺伝子レベルで理解する目的で、シロイヌナズナ種子を低温処理後、発芽過程12~48時間目のPA産生量を測定した。その結果、PAは、12時間で最も高く、その後減少していくこと、さらにABA存在下では、PAが顕著に蓄積していることを見出した。したがって種子における発芽過程ではABAのシグナルによりPAが産生し、種子発芽を抑制すると予想した。そこで、PAの分解酵素であるリン酸化脂質ホスファターゼ(LPP)に注目した。発現解析から発芽過程に機能しうるLPP2のノックアウト変異体(KO)を用いたABA感受性試験を行ったところ、LPP2-KOは発芽時にABA高感受性であり、ABA存在下での発芽過程で劇的にPAを蓄積していることを見出した。二重変異体を用いた解析によりPAの下流にABA Insensitive4(ABI4)が存在していることが示唆された。現在、LPP2-KOを用いたゲノム科学的解析および遺伝学的な解析を進めている。