抄録
植物は乾燥などの環境ストレスに応答して様々な代謝産物を蓄積し、耐性を獲得することがこれまでの生理学的研究により知られている。また、近年のマイクロアレイ解析により、乾燥ストレスによりその発現が誘導される遺伝子が多数存在し、その中には代謝に関する遺伝子の存在も確認された (Seki et al., 2002)。そこで本研究では、乾燥ストレス下のシロイヌナズナを用いて、植物の乾燥ストレス応答機構に関わる代謝制御ネットワークの全体像を明らかにすることを目的に、トランスクリプトーム及びメタボローム解析を行っている。これまでに、LC/MSによりフラボノイド類, GC/MSによりアミノ酸や糖類、 CE/MSによりアミノ酸や有機酸などの代謝産物の網羅的解析を行った。その結果、フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸、バリンなどの分枝アミノ酸、プトレスシンなどのポリアミン、そしていくつかのフラボノイドが乾燥ストレス特異的に上昇することが明らかになった。これら代謝系の遺伝子の中にも乾燥ストレスによって誘導される遺伝子が存在し、乾燥ストレス応答にこれらの代謝系が関与している可能性が示唆された。また、乾燥ストレス応答において、アブシジン酸(ABA)は気孔の閉鎖や遺伝子の発現誘導など重要な役割を果たす植物ホルモンである。そこで、現在ABA合成系の欠損変異体を用いた解析を進めており、その結果についても合わせて報告する予定である。