抄録
光化学系Iサイクリック電子伝達に異常を示すシロイヌナズナ変異株(pgr5、crr2-2)を用いて光合成電子伝達の制御を調べた。変異株pgr5 (proton gradient regulation)はFd依存のサイクリック(FQR)経路を、crr2-2 (chlororespiratory reduction)はNAD(P)H依存の(NDH)経路を欠損する。空気中で葉に照射する光の強度を変えながらクロロフィル蛍光および820 nmの吸収(系I反応中心P700の酸化還元状態)を測定したところ、野生株においては系I量子収率が系II量子収率よりも高いことが分かった。一方、変異株pgr5では系Iおよび系II量子収率に差はなかった。系II量子収率は野生株の方が高かった。また、光照射下で野生株のP700は部分的に酸化されていたのに対し、pgr5では全てのP700が還元型であった。野生株においては系Iの還元側の制限(P700A-の蓄積)は殆ど観察されなかったが、pgr5では顕著であった。変異株crr2-2においては野生株と類似した測定結果が得られた。これらの結果は、系Iサイクリック電子伝達が起きると系I量子収率は系II量子収率よりも高くなることを示す。また、この制御により結果として直鎖電子伝達の速度は大きくなることを示す。シロイヌナズナの系Iサイクリックへの寄与はPGR5依存FQR経路の方が大きいことを示す。