抄録
プラスチド内包膜に存在する2-オキソグルタル酸/リンゴ酸輸送体(OMT)とジカルボン酸輸送体(DCT)は協調して働き,TCA回路や光呼吸経路で生じた2-オキソグルタル酸をストロマ内のGS/GOGAT回路に受け渡すとともに,生じたグルタミン酸のサイトソルへの排出を行っており,OMT/DCT輸送系は炭素代謝と窒素代謝を連結する役割をもつ.輸送特性に差異が見られるOMTとDCTは遺伝子発現様式に違いが見られることから,協調的な輸送系の形成のみではなく,各々独自の生理機能も担っていることが推察されている.我々はそれら新規生理機能の解明を目指し,各輸送体遺伝子の破壊株および過剰発現株を用いた解析を行っている.
OMT mRNAの蓄積が見られないシロイヌナズナT-DNA挿入株では,野生株に比べて生育の遅延が見られた.一方,野生株に比べてmRNAレベルで数十倍,基質輸送活性で約2倍の増大が見られたOMT過剰発現株では,目立った生育上の違いは見られなかった.現在,組織中の代謝産物含量を解析中である.
OMT遺伝子はDCT遺伝子とは異なり,窒素栄養補填に応答して一過的な発現増大が起こる.そこで,窒素欠乏のシロイヌナズナ培養細胞に各種の代謝中間体や阻害剤を添加してOMT mRNA蓄積量の変動を調べたところ,硝酸イオンが発現誘導の引き金になっていることが明らかとなった.