抄録
植物の光合成能力は栽培温度環境に馴化し、光合成速度の最適温度は低温で育てた植物ほど低い。このような光合成の温度馴化メカニズムについてはまだ不明な点が多く、いくつかの仮説が提唱されている。Farquharらは、光合成の最適温度の変化は2つの光合成部分反応、Rubiscoのカルボキシレーション反応とRuBP再生反応とのバランス変化により生じると提唱した(Farquhar & von Caemmerer 1982)。最近、筆者らは、光合成の最適温度の変化には、それら二つのバランス変化だけではなく、カルボキシレーションの温度依存性の変化そのものが大きく関与することを示した(Yamori et al., in press)。本研究では、Rubiscoの温度馴化メカニズムを知るために、15℃と30℃で栽培したホウレンソウ葉からRubiscoを精製し、Rubisco特性の温度馴化を解析した。
15℃で栽培した葉のRubiscoは30℃で栽培した葉のものより、カルボキシレーション反応の熱安定性が低かった。また、栽培温度の違いにより、Rubisco small subunitの二次元電気泳動パターンに違いがあった。これらの結果は、低温に馴化したホウレンソウ葉では、低温側で効率よく働くRubiscoアイソザイムが発現している可能性、もしくは、Rubiscoの翻訳後の修飾が温度によって違う可能性を示している。このようなRubisco特性の変化が、光合成速度の最適温度の変化を引き起こしていると考えられる。