抄録
イネ突然変異体Epi-d1は、1個体内に矮性型と正常型の2つの表現型をキメラ状に併せ持つ変異体である。詳細な遺伝調査の結果、この変異体は表現型が固定せず、メンデル遺伝に従わないエピジェネティックな変異体であることが明らかになった。そこでEpi-d1の表現型を制御するエピジェネティックな分子機構を明らかにすることを目的に本研究に着手した。
まず、エピジェネティックな制御を受けているターゲット遺伝子の同定を試みた。日本型イネのEpi-d1とインド型イネのカサラスとの交配後代を用いてポジショナルクローニングを試みこのエピジェネティック制御を行う領域をイネ第5染色体-59cM、39kbにマップした。この候補領域に座乗する遺伝子の中からターゲット遺伝子の候補D1(G-protein α-subunit)を見いだした。次にD1遺伝子の機能欠失型変異体とEpi-d1変異体の同座性検定と相補性検定からEpi-d1のターゲット遺伝子はD1であると確定した。さらにこのEpi-d1変異体におけるD1の発現について調べたところ、矮性部位では発現が完全にOffになっており、正常部位ではOnになっていることを見いだした。D1近傍の遺伝子においては矮性部位と正常部位で発現の違いは無く、1つの遺伝子のみがエピジェネティックな変異をもたらすターゲットとなっていると結論した。