抄録
側枝の形成の制御は、高等植物の地上部の形態を決める上で非常に重要な要素の一つである。これまでに我々は、側芽の形成制御に異常を持つと考えられる興味深い温度感受性の劣性の変異体msp1とmsp2を得ている。これらの変異体は許容温度下(15℃)では正常に成長するが、制限温度下(27℃)ではシュートの発達が抑えられるとともに側芽原基が異常な高頻度で形成されシュート原基の集塊を形成する。このシュート原基集塊形成は、サイトカイニンを含む培地上では27℃より低い温度で起ったことから、msp変異体では、制限温度下で内生サイトカイニン量の増加や、サイトカイニン感受性の増大が起っている可能性が考えられた。そこで、下胚軸切片のカルス化と緑化、下胚軸由来のカルスからのシュート再生、暗所での芽生えの黄化について、サイトカイニンに対する応答をmsp変異体と野生型株で比較した。その結果、いずれの実験においても、上記の可能性を支持する結果は得られず、逆にmsp変異体はサイトカイニンに対する感受性が制限温度下で低下したことを示す結果が得られた。したがって、制限温度下におけるmsp変異体の異常にサイトカイニン情報伝達が関わるならば、側芽原基形成をサイトカイニンの受容よりも下流で負に制御する因子の異常である可能性が考えられる。