抄録
生物の器官形成の過程で、いかにしてその形や大きさが決定されるかは、未だに未解明の課題である。おもにシロイヌナズナの解析から、葉の細胞数の減少を引き起こす突然変異はしばしば、細胞のサイズの増加を伴う事が知られている。その結果、葉のサイズの減少率が、細胞数の減少率よりも小さくなるため、この現象を補償作用と呼ぶ。しかしそのメカニズムは全く明らかにされていない。我々は補償作用を説明するために、葉原基内である種の細胞間コミュニケーション、すなわち、増殖中の細胞から分化中の細胞に対する、負の細胞伸長制御を仮定している。この仮定を置くと、補償作用は、葉原基内の細胞数が減少することで、この負の制御効果が弱まり、葉細胞が通常よりも大型化する現象と説明できる。今回我々は、補償作用の分子メカニズムを理解し、この仮説を検証するステップの一つとして、補償作用を示すシロイヌナズナの突然変異株を5系統単離した。そのうち、突然変異株の詳細な解析と、map-based cloningによる変異原因遺伝子のクローニング状況とについて報告する。