抄録
近年、葉の器官サイズ決定機構を理解する上で、補償作用と呼ばれる現象が注目を集め始めた。これは、突然変異や遺伝子発現操作によって、葉の細胞数が減少すると、葉細胞が通常より大型化し、結果として、葉のサイズの減少が補償される現象である。このことから、葉器官サイズの決定に、細胞増殖と細胞伸長の相互作用が関与する可能性が議論されている。しかし補償作用の背景にある遺伝メカニズムはほとんど明らかになっていない。そこで本研究では、補償作用が細胞数の減少による補償作用の“誘導”と、細胞伸長の活性化という“応答”の二つの過程に分割できると仮定し、この現象の作用機作を解析している。まず誘導過程について我々は既に、補償作用を示すangstifolia3 (an3) 変異株を報告してきた。その一方、軽微な細胞数の減少を示す突然変異株も得ており、これらは補償作用を示さない。この観察から補償作用の誘導には細胞数がある程度以下に減少する必要がある可能性が示唆された。この仮説を検証するために、現在細胞増殖のみに変異を示す突然変異株とan3との二重変異株の作成を行なっている。また、応答過程については、これまでに単離ずみの細胞伸長に変異を示す変異株とan3との二重変異株を作成し、補償作用が制御している細胞伸長制御系との関連を調べている。本発表では以上のデータを基に、補償作用における各過程の遺伝学的な解析結果を報告する。