抄録
イネの脱粒性は、栽培化の過程で選抜の対象となった形質の1つである。脱粒性には複数の遺伝子が関与することがQTL解析等により示唆されている。我々は、脱粒性関連遺伝子のうち、第1染色体長腕にQTLとして見いだされた離層の形成に必須な遺伝子であるqSH-1をマップベースクローニング法により単離した。まず、日本型品種日本晴(脱粒性難)とインド型品種Kasalath(脱粒性易)の戻し交雑後代から、qSH-1の分離集団7718個体を作出し、qSH-1の高精度連鎖解析を行った。その結果、qSH-1の機能の差の原因となる多型を1個のSNPに特定できた。このSNP周辺には明確なORFは存在せず、SNPから12kb離れた位置にシロイヌナズナのREPLUMLESSと高い相同性を示すORFが予測された。このSNP近傍の各種ゲノム断片を用いた相補実験の結果、上記のSNPとORFを共に含む約21kbのカサラスゲノム断片を日本晴に形質転換した時のみ脱粒性が明確に相補した。現在、SNPの有無による予想ORFの遺伝子発現の変化を解析している。
次に、イネのコアコレクションを用い、qSH-1の遺伝子の原因SNPの遺伝子型を確認した。その結果、インド稲や野生イネは、機能型SNPをもち、欠損型SNPは日本稲の一部でのみ検出された。また、脱粒性程度とSNPの遺伝子型には相関があり、系統樹との対応も見出した。