抄録
不等分裂は、1つの細胞が異なる運命をもつ2つの娘細胞に分化していく過程であり、細胞の多様性を生み出す根元的事象である。しかしながら、その分子メカニズムの多くは未解明である。コケ植物ヒメツリガネゴケから単離したプロトプラストの第一分裂は、増殖能を維持し続ける幹細胞としての性質を持つ娘細胞と、増殖能の低いより分化した娘細胞に分かれる不等分裂である。我々は、この点に着目し、ヒメツリガネゴケの末端配列決定済みの完全長cDNAをヒメツリガネゴケ単離プロトプラストに一過的に過剰発現させ、不等分裂過程に異常を引き起こす原因遺伝子のスクリーニングを行ってきた。機能未知の遺伝子を中心に3,400種類の遺伝子を過剰発現させた。その結果、不等分裂が等分裂になるもの、不等分裂がおこらず等方位的に細胞が巨大化するもの、幹細胞様細胞がクラスター化するものなど細胞極性形成や不等分裂異常に関わると考えられる原因遺伝子58種類を同定することができた。これら候補遺伝子について細胞極性形成など不等分裂時における機能を調べるために、RNA干渉による表現型の解析、および遺伝子ターゲティングにより蛍光タンパク質をノックインした形質転換体を作成し、内在性プロモーター制御下における融合タンパク質の細胞内局在の解析を開始した。以上をふまえ、得られた遺伝子群の不等分裂における関わりについて考察する。