抄録
シロイヌナズナrd29B遺伝子の乾燥応答による発現は、主にABAを介して制御され、プロモーター領域に存在する2個のABREをシス因子として、これにbZIP型転写因子AREBが特異的に結合して下流の遺伝子発現を制御している。AREB1の転写活性化にはABAに依存した翻訳後修飾が必要だと考えられたが、リン酸化のターゲット配列が高度に保存されていることから、AREB1のリン酸化と転写活性化について調べた。
アミノ酸置換を導入したAREBタンパク質断片を基質としてゲル内リン酸化実験を行ったところ、T87培養細胞抽出液中にAREB保存領域に存在するRxxS/TのS/T残基をABA依存的にリン酸化するkinase活性が存在した。AREB1-N末側4ヶ所のRxxS/TのS/TをAraに置換すると、transactivation実験における転写活性化がほぼ完全に抑制された。一方、このS/TをAspに置換してリン酸化状態を偽装した場合、ABA非依存的な転写活性がみられ、全てをAspに置換すると、ABA非依存的な活性型になった。
この活性型AREB1を高発現する形質転換植物では、rd29B遺伝子がABA非依存的に発現していた。さらに、この形質転換植物を用いて活性型AREB1で発現制御される遺伝子をマイクロアレイで解析したところ、LEAタンパク質などのABA誘導性遺伝子に加えて、いくつかの種子特異的遺伝子が発現していた。これは、リン酸化を偽装したAREB1の異所的発現によって、本来はABI5などの制御下にある種子特異的遺伝子が発現したと考えられた。