抄録
器官再生の現場では、形態形成の基盤となる要素機構の多くが集約的に動員されているはずである。私たちは器官再生の好例である不定根形成に着目し、形態形成の要素機構の分子遺伝学的解明を目指して、この現象に関わるシロイヌナズナ温度感受性突然変異体の解析を行っている。本発表では、これらの変異体の一つrid2に関して、責任遺伝子RID2の同定およびその発現パターンを報告する。
ポジショナルクローニングの結果、RID2遺伝子はAt5g57280に相当することが判明した。この遺伝子がコードするタンパク質は、S-adenosylmethionine結合モチーフと核移行シグナルを有しており、何らかの核内メチル化反応への関与が予想される。胚軸断片をオーキシンで処理して不定根形成を誘導すると、12時間以内にRID2 mRNA蓄積量は著しく増大した。この発現パターンは、不定根形成の初期過程(おそらくは細胞分裂の再開)が温度感受性を示すrid2変異体の表現型とよく対応している。さらにRID2pro::GUSレポーター遺伝子を用いた解析により、RID2が主根先端の近傍(始原細胞の領域は含まない)や側根原基で強く発現することを示す結果を得た。